ラビリンスの回廊
イシュトの足の所業に慌ててヴァンが抗議しようとしたが、もう見える位置にイシュトはおらず、仕方なしにグッと堪えた様子だった。
「では私も」
そう言ったエマは、すました顔でイシュトが開けた扉から中へ入って行く。
呆気にとられた玲奈に、ルクトは軽く笑って「お~れもっ」と言いながら家の中へ向かって行った。
ぽつんと取り残されたヴァンと玲奈は、いつしか二人で顔を見合せていた。
「苦労……してるんでしょうね、レイナさん」
「……お前もな」
そしてしばらくすると、わさわさと服を抱えたイシュトと手ぶらのベンス兄妹が戻ってきた。
不思議そうに見たヴァンに、不本意そうにイシュトが苦々しい言葉を吐く。
「俺様が、負けるなど……」
「いや~、イシュトくんは弱いねぇ~
おかげで、しばらくの間荷物持ちから解放されるけど」
にやにやしたルクトが、勝敗を語り始めたのを見つめるイシュトは憎々しげだ。
何事もなかったように玲奈に服を渡すエマに対しては、イシュトの顔に畏怖の感情が張り付いていた。