ラビリンスの回廊


「淑やかであるだけでなく、何事にも動じぬ度胸が気に入った。
機転もきくし、なにより主人思いだ。

惜しむらくは、主人がこんなやつだということか」


最後の台詞を玲奈に向け、フフン、と鼻で笑う。


「役とは言え、不憫だな」


そう言って、あからさまに溜め息をつくと、イシュトはエマへ近付いた。


「俺様なら、主人として仕えがいがあるぞ」


エマの顎に手を伸ばし、ゆっくりと持ち上げる。


「イシュト様!」

諌めようとするヴァンに構うことなく、イシュトはどうだ?と囁く。


エマは表情をかえずにイシュトの目を見詰め返した。


ルクトはまだ呆気にとられ、口を大きく開けている。


「ち、ちょ……マジかよ……」

目の前で繰り広げられた突然の口説きシーンに、玲奈はあわあわと顔を真っ赤にさせ、モゴモゴと口ごもった。


ゆっくりと口を開いて沈黙を破り、言葉を発したのはエマだった。


「不可能です」


嫌です、でもなく。

無理です、でもない。


不可能という返事を聞いて、イシュトはニヤリと笑った。


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