ラビリンスの回廊


はしゃいでいるルクトにさめた目を向けながら、イシュトがボソッと呟いた。


「……白々しいな」


それを聞き咎めた玲奈だったが、先ほどの会話のイライラを思い出し、口をつぐんだ。


無言の玲奈にかまうことなく、イシュトは衣服を脱ぎ始める。


「ちょ……!
あたし、向こうに行ってっかんな……っ」


慌てて目をそらして背を向けた玲奈に、イシュトは悪魔のようにニヤリと笑った。


「待て」
という言葉に、玲奈がビクッと立ち止まる。


「な……なんだよっ」


振り返りもしない玲奈に、彼は脱いだシャツから手を離すと、ゆっくりと玲奈に近付いた。


気配を察して足を半歩擦った玲奈の耳元へ、そっと口を寄せた。


「跳ねっ返りも入ればいいだろう」


ぞくんっと身を強ばらせた玲奈から、肘がイシュトへと繰り出される。


「おっと」

余裕でそれをかわしたイシュトは「同じ手は通じん」と言って低い笑い声と共に川へ入っていった。


「──ッ!」

玲奈はからかわれたことに怒りを見せたが、それは夜の帳で全て隠されてしまった。


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