ラビリンスの回廊
玲奈が怒りを露にしてエマのところへ戻ると、ヴァンと共に無言で地面に座り込んでいた。
エマは「ちょっと失礼します」と玲奈に言い置き、立ち上がってどこかへと姿を消した。
そのエマが座っていた場所に、膝を抱えて頬杖をつきながら玲奈は腰をおろす。
その所作を見て、ヴァンが口を開いた。
「レイナさんは、湯あみしなくていいんですか?
もし入るなら、男性陣には我慢させますけど」
玲奈は視線を合わせることなく、静かに首を振った。
それを見たのか、雰囲気で感じたのかはわからない。
ただ、ヴァンはそれには何も言わず、全く違う話題を振ってきた。
「レイナさん。レイナさんたちはどうしてアレを使いたいんですか?」
玲奈は一瞬、思考が止まった。
外の夜は、音が絶えない。
耳に触れて離れていく風の音、夜を楽しむ鳥が歌をついばむような音、草木のざわめき。
そのなかでは心臓の音は微かなもののはずだが、玲奈には自分のその音がはっきりと聞こえていた。