女優デビュー
本読みは家で練習してきた甲斐あって、無事終了。
もちろん他の俳優さんたちに比べたら、下手だけどね。
自分でもそれくらいの自覚はある。
でも本当に演技なんてまったく経験ないんだもん。
せいぜい幼稚園の時のお遊戯会でシンデレラやったくらい。
それじゃ話にならないよね……
ま、最初からわかってたことだけどさ。
でもまあ、とりあえずディレクターさんに怒鳴られるようなことはなく終わったのでほっとした。
仕事を終えた皆さんは、三々五々部屋から出て行っている。
私は石田さんの姿を探した。
石田さんはディレクターさんとなにやら話しこんでいた。
そこで私は、事務所の先輩である悟君に挨拶しておこうと声を掛けた。
「あの、安西さん」
さっき石田さんに注意されたから、ちゃんと苗字で呼んだ。
先に部屋を出て行く俳優さん達に挨拶していた悟君は、「ん?」と私の顔を見た。