女優デビュー
私は淳君の勢いに圧倒されてしまった。

思わず体を引きながら、苦笑いを返すしかできなかった。


「そ、そっか、わかった。
じゃあ、できるだけ気をつけるね……」


私がそう答えると淳君は安心したらしく、元の姿勢に戻って「うん」と頷いた。


「あのー、話って、それだけかな?」

私がおそるおそる聞くと、淳君はまた頷いた。


「じゃあ、私、これで……」

「うん、またあとでね」


私は立ち上がってこわばり気味の笑顔で淳君に手を振り、奏真君の楽屋を後にした。


学さんと仲良くすると危ないって、どういうこと?

理由を教えてくれないから、淳君の言うことは素直には信じがたかった。

でも、今までそれほどお喋りしたこともなかった淳君が、私に対して何かしらの感情を持っているとは考えにくい。

奏真君みたいに学さんに焼きもちやいてるなんてことはまずないと思う。

だとしたら、本当に純粋に私の身を案じて忠告してくれたってことなのかなあ……


つらつら考えたけど、当然答えの出るはずもなく、私はすぐに学さんの楽屋に着いた。

よくわからないけど、一応、心に留めておこう、そう決めて、学さんの楽屋のドアをノックしようと手を上げた。

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