女優デビュー
「一人で帰るの?」
すごく自然に、まるで友達に話しかけるように聞かれ、私はどぎまぎしながら頷いた。
「はい」
ふと視界に、さっきまで奏真君と話していた淳君の姿が入った。
20mくらい先に立ってこっちを見てるみたい。
なんだか、寂しそうに見えた。
まるで、捨てられた子犬みたい。
いやいやいや。
だめだ、どうも私は淳君を見ると犬を連想しちゃうみたい。
ごめんなさい、淳君。
きっと気のせいだね。
淳君はやがて背を向けて去っていった。
「よかったら、乗ってく?」
奏真君に視線を戻すと、奏真君はポケットからキーホルダーを覗かせていた。
えええっ?
私は、ブンブンと顔の前で手を振った。
「いえ、とんでもないです!」
超売れっ子の俳優さんに新人の私が送ってもらうなんて、ありえないでしょ。
ところが、奏真君は私の返事を無視し、肩を抱いて回れ右した。
「遠慮しない、遠慮しない!」