女優デビュー

「一人で帰るの?」

すごく自然に、まるで友達に話しかけるように聞かれ、私はどぎまぎしながら頷いた。

「はい」


ふと視界に、さっきまで奏真君と話していた淳君の姿が入った。

20mくらい先に立ってこっちを見てるみたい。

なんだか、寂しそうに見えた。

まるで、捨てられた子犬みたい。

いやいやいや。

だめだ、どうも私は淳君を見ると犬を連想しちゃうみたい。

ごめんなさい、淳君。

きっと気のせいだね。

淳君はやがて背を向けて去っていった。


「よかったら、乗ってく?」

奏真君に視線を戻すと、奏真君はポケットからキーホルダーを覗かせていた。

えええっ?

私は、ブンブンと顔の前で手を振った。

「いえ、とんでもないです!」

超売れっ子の俳優さんに新人の私が送ってもらうなんて、ありえないでしょ。


ところが、奏真君は私の返事を無視し、肩を抱いて回れ右した。

「遠慮しない、遠慮しない!」

< 18 / 260 >

この作品をシェア

pagetop