女優デビュー
二人が自販機コーナーから立ち去るまで、私はその場から動けなかった。


セリフが棒読み


演技の勉強をしていない


誰もダメ出ししない


悟君で持ってるドラマ――



可愛い美奈ちゃんはそこにはいなかった。

痛烈に私を批判する声は、一人前の女優のものだった。


どれもこれも、言われてみれば思い当たることばかりだった。

たしかに。

そのとおりだ。


ディレクターさんが私の演技に注文をつけないのは、私が上手いからじゃなく、私に期待してないから。


もしかして、女優に向いてるのかも、なんてお気楽に考えていた自分が恥ずかしかった―――



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