女優デビュー
しかし、石田さんは私の期待する返事はくれなかった。

「ディレクターが何も言わないのは、あなたの演技に満足しているからでしょう。
あなたは今のままでいいんです。
……私と悟は先を急ぐので、これで」


そんな……

なんで上達方法すら教えてくれないの?

でも、悟君のお仕事の邪魔をしちゃいけない。

私は気を取り直して言った。


「すみません、安西さん、この後ラジオの収録でしたよね?
私のことは気にしないで行ってください」

さっき、スタジオを出るとき、石田さんがそう言ってたはず。

悟君が私のせいで遅刻したりしたら、申し訳ない。

私が悟君に向かってそう言うと、悟君は私の目を見た。


「俺でよければ、手伝うよ」


「え?」


< 58 / 260 >

この作品をシェア

pagetop