女優デビュー
私は斜め後ろから石田さんの横顔を見て声をかけてみた。
「あの、悟君は今日はどうやって局に来るんですか?」
石田さんが私の迎えに来ちゃったら悟君を迎えにいけないし、かといって超人気俳優が電車に乗ってくるとも思えない。
石田さんは前に向けた視線を動かさずに答えた。
「他のスタッフを迎えに行かせてありますから、あなたが心配することはありません。
それより……
同じ事務所の俳優でも、あなたにとっては安西悟も先輩です。
もう一般人ではないのですから、名前ではなく苗字で呼ぶように」
「あ、すみません……」
あちゃー、叱られちゃった。
でも、石田さんのいうとおりだ。
反省。
結局、それ以上私も話題を見つけられず、石田さんからも何も言われず、テレビ局に着くまでずっとお互いに無言だった――