女優デビュー
「前に共演した役者さんが出るんだけど、この人、知ってる?」


悟君はチラシの中の一人の俳優さんの写真を指差した。


「いえ、何かで顔は見たことある気がしますけど……」

私が首をかしげると、悟君は頷いた。

「もともと舞台俳優さんだから、知らなくても仕方ないけど、演技力はすごいんだ。
俺も共演しててすごく勉強になった。
セリフ練習も大切だけど、上手い人の演技を見るのもいい勉強になると思うよ」

「そうですね。
見てみたいです!」

悟君のオススメならきっと参考になる。

私が勢い込んでそう言った時、楽屋のドアがノックされ、石田さんが入ってきた。


「……千夏さん?」

冷ややかな目で見下ろされた。

「あ、あの、安西さんにセリフの練習に付き合っていただいてたんです。
いろいろ指導していただいてて……」

「ああ、このあいだの……」

石田さんの表情が少しゆるんだのを見て私はほっとした。

石田さん、私が悟君の楽屋にいるの、よく思わないのかな。
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