女優デビュー
そして、舞台鑑賞当日――


「では、私はロビーにいますから、終わったら速やかに出てきてください」

「あ、終わった後、楽屋に挨拶に行く約束してあるんで、ちょっと時間かかると思うけど」

「わかりました」

悟君の言葉に頷き、石田さんは会場を出て行った。


私は本格的な舞台を見るのは初めて。

大きな会場はほぼ満席だった。

演出家も有名な方のようで、悟君にいろいろ教えてもらいながら開演を待った。



――そして、終演後。


「どうだった?」

幕が下り、会場に明かりがついて悟君に問いかけられても、私はしばらく声が出なかった。


躍動、激情、感動――


私の胸の中は嵐が猛威をふるった後のように混乱していた。

「すごい、すごかったです!」

気持ちをうまく表現する言葉が出てこなくて、私はただ『すごい』を繰り返した。

悟君は満足そうにニッコリ笑って立ち上がり、私を促した。

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