AEVE ENDING
「…?」
しかし、その投げ出した身体に妙な違和感を感じる。
放り投げた拍子にめくられた衣服から、白い脇腹が覗いていた。
―――なまっちろい肌に走る、薄色の、皮膚の亀裂。
今は瘡蓋が取れたあとのような傷痕が、脇腹から背中へと走っていた。
(…ふぅん?)
よく見ればそれだけではなく、あちらこちらに点在する、傷、傷、傷。
(―――傷、じゃない)
痕、だ。
怪我をして出来た傷痕ではない。
なにかしらの施術、施工の、痕。
それらがまるで、体を覆うように縦横無尽に走っている。
(…一体、なんの名残?)
それを隠すようにシーツを被せれば、倫子はもぞりと身じろいだ。
身体の隅々まで走る禍々しさとはまるで遠いところにいるような安らかな寝顔。
『…オヤスミ、橘 倫子』
なににせよ、干渉は不要だ。
「…君のお陰で遅刻だ」
誰もいない食堂で遅い朝食を取る。
普段は多くの生徒達で賑わっているというのに、今日は時間帯のズレもあってか、倫子と雲雀、ふたりしかいない。
席を争奪しなくていいとあっては楽なのだが、これはこれでどこか寂しくも感じる。
「…もっと早く起こせば良かったじゃん」
ばくりと玉子サンドイッチに食らいつき、倫子は無責任にも唇を尖らせた。
「先ず六時に一回、七時に二回、それでも起きなかったのは誰だったかな」
湯気を立てる紅茶を手にした雲雀は、そのカップとは相反して冷ややかに対応する。
「…スンマセーン」
(六時って、…こいつ何時に起きてんだよ。年寄りか)
固めのパンをぎしりと噛みきって、倫子は内心で文句を吐き捨てた。
「五時だよ」
「…聞いてないし」
「ごめん。あまりにも自然に流れてきたから、肉声かと思った」
これは、やはり本気でストッパーをかける練習をしなくてはならない。
いちいち嫌味を脳髄に食らわされては堪ったもんじゃない。
「…この、クソヤローが」
悔し紛れに言い返したら。
「ほら、行くよ」
華麗にスルーされ、穏やかな物腰で雲雀が立ち上がった。