AEVE ENDING
「…まさか暴走を制御するとは。神の近くにいれば、バケモノも進化するか」
桐生が呆れたように息を吐いた。
血塗れの倫子を一瞥し、血液が付着したピアノ線を辿れば、その肩を引き裂いたそれは鈍く細い音を立てながら瓦礫を伝う。
「橘、っ」
足下に転がっていた倫子に、ロビンが手を伸ばす―――その瞬間、その手を乱暴に蹴り上げて、雲雀は膝を折った。
覗き込む背中は、既に己から漏れ出る赤で完全に染まりつつあり、肩口の裂かれた傷からは溢れんばかりの血液が音を立てて流出している。
風が、耳にうるさい。
やまない。
(―――何故?)
橘に、触れているのに。
「橘…?」
確かめるように名を呼ぶのに。
触れた頬は何故、こんなにも冷たいのか。
「シュラ、ここには俺が残る!お前は橘を連れて箱舟へ…」
ロビンが雲雀と倫子を庇うように立ち、桐生へと向き合う。
殺気立ったその気配に、桐生はさも可笑しいと言わんばかりに嘲笑した。
「やりあうつもりはないよ。もう用は済んだからね」
両手を掲げ笑う。
莫迦にしているのか。
「橘を殺すのが目的か?」
ロビンは低く唸った。
今すぐにでも桐生に殴りかかりたいが、双子が邪魔をして間合いを詰めることすらできない。
跳躍したとて傀儡二体が相手では不利だ。
「失敗作を殺したところでなにもならんが…、まあ、依頼があった内容はさして変わらぬか」
桐生がゆっくりと立ち上がる。
―――逃げる気か?
「っうおぁっ!」
ロビンが構えた瞬間、背後からとんでもない圧力が放出された。
直射されている脊髄が、内側から融けていきそうなまでに強い―――強すぎて、熱すら感じる。
じわり。
アダムとしての己を脅かすもの。
(絶対的な、支配を)
「っ、」
―――雲雀、だ。
能力を解放しかけている。
真後ろに太陽でもあるかのような、その圧力に息が詰まった。
熱波が及んだ瓦礫は既に焼き石のように赤く燃えている。
このまま解放させれば、この巨大な「ビル」は屋上から融解することになるだろう。