AEVE ENDING
「―――、ッ!」
ぞくり。
箱舟の回廊にいた奥田、ササリ、真鶸の三人は突然の衝撃に転がった。
「な、に、地震…?」
床に必死にへばりつきながらササリが唸る。
強かに打ち付けた額はこぶになっていた。
地の底から響いてくるようなそれは、地盤自体が揺れているそれとは大差ないが、しかし。
「ササリ…見ろ」
奥田に促され、ササリは蛇の腹が蠢くような波に耐えながら顔を上げる。
揺れる視線の先には、眼を見開いたまま呆然としている奥田と、真鶸。
ふたりの視線の先は支柱の更に向こう側―――海、だ。
尋常ではないふたりの様子を訝しみながら、ササリは上下激しく揺れる視線をたぐる。
いつもと変わらぬ、暗雲の垂れ込める空は、もうそこになかった。
「―――なによ、あれ」
遥か彼方。
丁度、アダム候補生達がセクションに向かっている「ビル」の方角。
赤色にとぐろを巻くのは確かに雲だが、その中央は黒く深くぱっくりと口を開け、まるで今にも世界を食い破らんとしようとしているが如く。
明らかにそこを震源地として揺れていた。
天候異常ではない、これは。
「兄様…?」
真鶸が蚊の鳴くような声でそう漏らした。
そうだ、この波長は明らかに、「修羅」のもの。
おぞましいまでに「そこ」へと流れてゆく雲は、まるで屍体に群がる蟲のように見える。
世界の終焉をもたらすその姿はまさしく、蛇のような姿で。
「桐生とやりあってる?…違う、これは」
奥田が真鶸を支えながら舌打ちした。
これだけ離れた箱舟でこうなのだ。
未だ、「ビル」に残るアダム候補生達は一体どうなっているか。
(―――ただでさえ感受性の高い若者達だ。雲雀にあてられて発狂する者も出るかもしれない)
修羅の本質は混沌、カオス。
脳内に流れ込むイメージですら常人には堪えられないものである筈だ。
「…、」
地鳴りが徐々に収まってきた。
赤く熟れた空は相変わらずだが、その腐敗した果肉は墜ちそうにない。