AEVE ENDING
「雲雀、くん…」
今にも崩れそうな雲雀に、泣きじゃくりながら真鶸が駆け寄るのを見ながら、奥田はただ痛む胸を抑えていた。
「はやく、橘を」
雲雀はただ譫言のように繰り返し、本当に意識があるのかすら怪しい。
ずるり、大量の血液が、床に艶やかな紋様を描いていた。
荒く上下する肩は悲痛で、雲雀くんらしくない。
らしく、なかった。
「生きて、る、から、早く」
なんで。
どうして。
「奥田先生…!」
どうして君達が、こんなにも傷付かなきゃならないのか。
どうして君達は、それでも互いに、離れようとしないのか。
本当は罪なんか、背負っちゃいないくせに。
罪に濡れながら、いつも、互いに悼みあって。
(…中年を、泣かせるなよ)
お前達はまだ、生きなきゃならない。
「―――助けるよ」
ズルリ。
雲雀の腕から倫子を受け取ろうとすれば、その体を抱く腕に力が籠る。
奥田に倫子の体を渡すのを、その細腕が拒否をする。
「…雲雀くん、倫子を」
離したくないのか。
離れられないのか。
「…無事だよ」
奥田を片目で見つめながら、雲雀の唇がゆっくりとそう紡いだ。
雲雀自体が何故ここまで負傷しているのか原因は不明だが、今はとにかく手当が先だ。
倫子に至っては、呼吸がない。
雲雀がなにを言いたいのか、奥田にはわからなかった。
けれど。
「―――君の大事な、『アミ』は、無事、…」
がくん…。
途端、電池が切れてしまったかのように雲雀の体が崩れ落ちた。
倒れる瞬間、奥田の腕に倫子を託して。
真鶸が悲鳴を上げてくず折れた雲雀を抱き起こしたが、意識はない。
(だから、…)
目頭が、熱い。
腕の中の倫子は、赤く爛れたマグマのように熱いというのに。
(中年を、泣かせるな、って)
こんなにも優しいこども達に、なにを課すというのか。