AEVE ENDING
それに釣られて、口いっぱいに朝食を頬張っていた倫子も慌てて席を立った。
右手には食べかけのサンドイッチ、左手にはアイスミルク。
「…意地汚いな、ちゃんと食べたら」
そんな倫子に、冷ややかに向けられる零度の双眸。
(こっちが食べてる最中に急かすあんたが悪い)
「まぁいいや。行くよ」
前を行く雲雀の真っ直ぐ伸ばされた背筋を眺める。
きちんと羽織った白いシャツにアイロンの効いた細身のスラックス、片手には制服の黒いジャケット。足元は、まるで空でも映しそうなほどよく磨かれた革靴。
対する倫子は、普段通りの制服に紐がタテに結ばれたよれたスニーカーだ。
(あ、こいつに言うの忘れてた)
今日から始まるサバイバルコースとやらは、きっとおキレイなままじゃ済まないだろう。
(汚れるよな、革靴。動きにくいし。しまった)
と言いつつ、倫子も普段通りではあるのだが。
「君が心配することじゃないよ」
振り返りもせず、雲雀は答えた。
先回りされた倫子は不機嫌に鼻を鳴らす。
(…また読まれた)
これはやはり、本格的に気合いを入れてストッパーを掛けるべきだ。
「…あ、」
俯きながら、ぶつぶつと小言を繰り返している雲雀のあとに続くが、倫子は不意に顔を上げた。
「今度はなに?」
まだなにかあるのか、と雲雀が律義に答える。
「ところで、どこに行くわけ?」
今日から本格的なセクションが行われることは知っているが、それが何処で行われるかなんて知らない。
事前に説明があるかと考えていたため、奥田から聞き出すこともしていなかった。
「…今更それに気付くんだ。本物の馬鹿なの?いい加減呆れちゃうよ」
その一言に倫子が動物のように素早く脚を振り上げるが、それを軽く避けた雲雀は更に一言追加する。
「早くおいで。もうすぐ着くよ」
こちらを見遣った雲雀の向こう側に、回廊の出口が見えた。
西部箱舟においても、滅多に来ない場所だ。