AEVE ENDING
「アナセスが意識を戻してすぐ、なんとか雲雀の力に対抗しようとしたけど、やっぱムリで、…もう、終わりだと」
あのアナセスすら、赤子のようだった。
靡く銀髪はこの世のものとは思えないほど美しく舞うのに。
能力を造り出せない空間の中で、アナセスだけはなんとか力を保持できたのに。
―――それすら、無理だった。
何度叫んでも、何度怒鳴りつけても、雲雀はロビン達を見ない。
ただ恍惚と、赤く染まった倫子を抱きながら、世界を終わらせようとしている。
もう、救いなど見い出せなかった。
―――神は、世界を拒絶したのだ。
『橘がいないなら、もう』
自我を喪い、暴走したわけでもない。
故意から及ぶ、悼みから及ぶ、願う、全ての消失。
「…目の前が、真っ暗になった」
もうこれで、本当に終わりなのだと。
救いは、神は、存在しなかった―――いいや、死んでしまったのだ。
慈しむ魂が途絶えたと共に、神も、生きることをやめた。
「―――その時、だった…。あいつ、あんな、ボロボロで」
ロビンが項垂れて、唇をきつく噛み締めた。
倫子の担架を掴む手に、離すまいと力を込められる。
「…こいつ、死んでなくて、」
―――いいや、きっと瀕死、或いは本当に死んでいたのだ。
雲雀の暴走に触発され、底無しの沼の底から、浮上するように。
『ひば、り…』
真っ赤な手が、雲雀の腕を掴む。
制止にしては、まるで緩く温めるかのように、か弱かった。
『橘…』
雲雀は、直ぐに正気を取り戻した。
本当は、自分でも気付かないところで知っていたのかもしれなかった。
倫子が、失くなってはいないことを。
『…いっ、てぇ』
倫子が呻く。
こんな時まで彼女らしくて、雲雀は微かに笑みを溢した。
その真っ赤な体を包む腕に力を込めて、その赤く染まった頬に額を寄せる。
まるで、母に甘える幼子(おさなご)の仕種のようだった。
倫子は今にも息を引き取りそうなほど弱っていたが、それでも腕に力を込めて、その小さな頭を抱き締める。