AEVE ENDING
「…疲れたのね。後は引き継ぐわ。部屋でシャワーを浴びて休みなさい」
その肩を叩き、すぐさま治療室のロックを解除する。
朝比奈と武藤に引き留められる前に、ドアの内側に身を滑り込ませると、肩越しにこちらを見ていたロビンと目が合った。
不満げである。
奥田は話したのだろうか、倫子の過去を。
「…他言無用よ」
一応それだけ念を押し、ドアが閉まった瞬間、治療台へと向き直った。
ロビンと比べ疲労を感じさせない奥田に、倫子の容体を尋ねる。
「ま、…なかなかどうしてうまくいってくれちゃったかな。雲雀くんのお陰だよ。衰弱は激しいけどね、ダイジョブ」
それを聞き、青ざめた倫子の頬に手を当てる。
火傷によりひきつった肌が、痛ましい。
「…また、傷が増えたわ」
何度、傷付けば済むのか。
何度、嘆けば終わるのか。
「ま、今回は雲雀くんも一緒だから、ね…」
奥田が少し寂しげに言う。
ササリと同じように倫子の焼けた髪を梳きながら、ゆったりと慈しむように。
「…慰めになるかしら」
いつだってこの子は涙を湛え、けれど決して、流そうとはしない。
「雲雀くんは、倫子の救いだから」
それは、倫子も雲雀の救いに成りうるということだろうか。
(互いに、ただ互いだけを求める)
それは錯綜する想いの果てなのか、或いは通過点なのか。
ただふたりは、今、双子のように瞼を閉じて眠りに就いている。
今だけは安らかに、なんて無責任なこと、言えやしないけれど。
「…そういえば、真鶸くんはどこ?」
ササリが思い出したように口を開いた。
当初、手伝いとしてこの治療室をちょろちょろと動き回っていた姿が見えない。
疲れて養生室で休んでいるのかと思えば、養生室には眠っている雲雀がいるだけで、あの可愛い容姿は見当たらなかった。
「あーハイハイ、あの子なら二時間前、親に呼び出しくらって出てったよ」
奥田が頭をぽりぽり掻きながら言う。
その奥田の言葉に、ササリは釈然としない表情を浮かべた。