AEVE ENDING
「…親?」
真鶸の親ということは、雲雀の親でもある。
倫子を贄として差し出し、研究の当時すら倫子自身を苦しめた存在。
―――一体、なんの用だと言うのか。
本来ならば、箱舟に収容された者を気安く呼び出すなど刑罰ものだ。
それを地位と権力を盾に、よくまあ、ほいほいやってくれる。
(…まさか、自分の息子の危機を感じ取って?)
ササリの思案げな視線が養生室の雲雀へと向けられる。
点滴に繋がれ、全身を包帯に巻かれた姿からは、普段の清廉された強さは見えない。
そんなササリの疑惑を固めるように、奥田が口を開いた。
「ロビンくんに聞いた話から察するに、桐生を差し向けたのは、あの二人らしいよ」
ぴーんと鼓膜が張るような感覚に陥った。
雲雀の両親―――果たして実の親なのか怪しいが―――彼らが倫子を貶める理由なら、腐るほどある。
そのどれも、正当とは言えない。
『邪魔だね、彼女は』
『雲雀さんを穢す存在ですわ』
(差し出したのは、お前達のくせに)
まだ倫子を、亡き者にしようというのか。
「傷付けて傷付けて、まだ、足りないのかしら…」
侮蔑を込めて吐き出したそれに、ササリ自身、苛立ちを隠せない己の未熟さを痛感する。
―――いや、隠す必要もないのかもしれなかった。
「…恐らく、雲雀くんと倫子の仲が急激に親しくなっちゃったお陰で色々と不都合が出てきたんだろうね」
雲雀の母にあたるあの女は、なにより美しい我が子を手中に収めていたいのだろうか。
「倫子が、雲雀の枷になる…?」
寝台に横たわる憐れな少女はまだ、夢から醒めない。