AEVE ENDING






「―――…」

ふ、と息を吐いた。

まるで死の縁から浮上したような不思議な感覚に囚われて、重くだるい瞼を開けたくはないのに、今すぐ跳ね起きて世界を見たいと思った。



(…橘、)

そうして持ち上げた瞼と共に、鮮明になる意識。

ビル、桐生、爆発、アナセス、ロビン、自爆、アミ、抑制……。


(―――橘…)

腕の中で、確実に傷付いてゆく。




「…、」

眩しい。

唐突に開かれた視界、機能する眼球、電気記号を読み取る脳。


まっしろ、だ。

泡に視界を埋め尽くされている―――。

溺れているような感覚に陥って、思わず喘いでしまいそうになった。

白の洪水に、溺れている。


(橘は、どこ)

全身が痛む。
痛むが、死の臭いは感じない。
この体はいつも自身の意思に関係なく、この傷付いた体を修復しようとする。

それは、保護本能なのだろう。
遺伝子自体が意思を持つように、己が死しては困る遥か昔の意思の刃先が。

死にたいと思ったところで、死ねやしない。

使命を果たすか、或いは老衰か。
でなければこの体は、壊れやしないのだ。


(…でも、)

橘は、違う。

眩しさが徐々に吸収されていく。

己の眼球にか、或いは空間の歪みにか、橘の体にか。



「橘、」

―――雲雀がその光を視線で追えば、目映いばかりに白に照らされた倫子を見つけた。

包帯に覆われた顔はただ静かに意識を落とし、固く閉じられた瞼は動かない。


生きているのか、いないのか。

血の滲む包帯が、雲雀を現実へと引き戻す。





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