AEVE ENDING
「…、」
そこはガラス張りの小さな部屋だった。
外に面した窓を通って、やけに白く発光した雲から目映いばかりの光が漏れている。
それに照らされた意識のない倫子は、診療台に寝かせられていた。
白いシーツを被り、その下に続く点滴は腕へと繋がっているのだろう。
恐らく、その見えない幕の下には、ボロボロになった体が横たわっている。
「…橘?」
己の声が思った以上に枯れていて少々驚いたが、痛みがあるわけでもない。
倫子は、答えなかった。
彼女と透明なパイプが繋ぐ機械音だけが、雲雀の耳に障る。
(…生きてる)
全身を這う痛みを無視して上体を起こす。
額と目許を隠す前髪を払ってしまいたくて、ゆっくりと倫子のベッドへと移動した。
足裏に感じるタイルの冷たさと体温の差に身震いをしながら、ゆっくりと近付けば、すぐに見下ろせる見慣れた顔。
腫れた顔を覆う包帯は忌々しいまでに彼女には似合わず、なにより、閉じた瞼のその表面にすら走る傷が気に入らなかった。
(以前より傷が増えたことを、恥じるだろうか)
そんなことを気にする必要はないと、どれだけ言い聞かせたところで。
『見るな…っ』
悲鳴はいつも訴えていたのだ。
それでも、いやだからこそ、暴きたくなってしまうのだと、彼女は知らない。
シーツから覗く頼りないほど細い首すら、皮膚が見えないほど包帯で包まれている。
それこそ傷は、彼女の全身を覆うのか。
―――消えないのだろう。
思わずと自分の掌を見やる。
倫子と同等に傷付いた筈のそこはもう既に治癒を終え、薄い痂が這うばかりだ。
数日すれば、負傷したことなど窺えないほどに修復されるだろう、体。
彼女の皮膚とは違い過ぎて、苛立ちしか産まれない。
(傷付きやすいくせに)
誰より脆いくせに、何故。
何故こうまで、彼女は、と不満を溢すことすら馬鹿げていた。
それなのに、それでも生きている魂にどうしようもないくらい焦がれて、そして傷付くな、と無茶なことを叩きつけてしまいたいのに。
(…でも、誰より橘を傷付けたいのは)
他でもない己なのだと、知っている。