AEVE ENDING
「橘…」
だからこそ救えるのだと、誰かが言ったのだ。
ざら…。
伸ばした指先に触れる硬い髪はさらさらと包帯を撫で、倫子の額を露にする。
そうしたところで、大半を覆う包帯のせいでほとんど顔は見えなかった。
それでも、と倫子のベッド端に腰掛け、その小さな額を掌で覆う。
「…、」
ざらり、と皮膚を撫でる包帯の粗い感触が無駄に訴えていた。
意識して集中すれば、それだけで、触れた先から倫子の過去が怒涛の勢いで流れ込んでくる。
『ぅ、あ…ぁ、』
映画の早回しのように、時間の流れなど関係なく次々と移り変わるイメージ。
あの時、アナセスが読み取ったものと同じだ。
重なるのは、傷付いた現実の倫子と、記憶の中の倫子。
血に濡れた視界で、いつもなにを見ていたのか。
(…謝らないよ)
自身の欲望のまま、彼女から身勝手に引き出している記憶はなにより、彼女にとって辛く暗いものなのだろう。
きっと、見せたいとは思っていないだろうから。
(隠したいんだ、きっと、誰からも)
血肉を蹂躙されるその瞬間を誰が望んだのか。
絶望を、誰が見せたいと思うのか。
―――だからこそ、雲雀は知らなければならなかった。
(…でも、本当は)
そんなことを知ったところでなにも変わりはしないのだ。
なにより倫子は、それでも生きることを忘れなかった。
(なにが、できるだろうか)
彼女の為に、と。
そう自然に違和感もなく考えている自分が可笑しかった。
(…なにができるわけでもないのに)
倫子の心音の正常を示す機械音だけが今は、雲雀にとっての救いだった。