AEVE ENDING
「アナセス」
ほんの数時間、箱舟を留守にしていたアナセスの姿を認め、ロビンは駆け足で彼女へと近寄った。
「ロビン、ただ今戻りました」
にこやかな笑みを浮かべたアナセスの表情に違和感を覚え、ロビンは眉を顰める。
中腰になって背の低いアナセスの顔を覗き込むと、やはり、と眉間の皺を深くした。
「…疲れてるみたいだ。一体なんの話だったんだ?」
雲雀の暴走未遂事件があったすぐ後、アナセスはあの雲雀夫婦に呼び出された。
賓客のアナセスを呼び出したことにとニーロは憤慨したが、なにぶん両国間の政治的問題が関わってくる為、結局はアナセスが素直に従うしかない。
「大体、アナセスひとりを寄越せだなんて横暴だ」
あの外交官夫婦にしては、あまりにも粗野な対応のような気がする。
盲目のアナセスを好き勝手に呼び出して、しかもそれは一度きりじゃない。
はじめの呼び出しから、これで三度目になる。
その度にアナセスは疲弊した様子で帰ってくるのだ。
(気にならないわけないじゃないか)
アナセスの側近として、兄代わりとして、アナセスが心労を重ねていくのを見たくない。
しかしアナセスが彼らに呼び出される度に問い詰めるが、アナセスは困ったように笑うだけ。
「なぁ、アナセス。一体どうしたんだ?最近じゃニーロやジミーまで君が元気がないって心配してる」
長い回廊の途中、設置してあるベンチにアナセスを促し、ロビンはそっとその銀色の頭を撫でた。
合衆国最強のアダムとはいえ、まだ未成年の少女なのだ。
指導者としての重り以外に、余計なものを背負わせたくはない。
「…雲雀や橘も、もう落ち着いたらしいよ。雲雀は、さっき目覚めたって」
喉に詰まるものがあるなら、吐き出してしまえばいいのに。
「…倫子さんは?」
こちらの話を耳に、アナセスが小さく口を開く。
アナセスは誰より、重傷を負った二人を心配していたのだ。
己の力が及ばぬ状況を体験し、己の無力を責めているようでもあった。
「…橘はまだ目覚めてないみたいだけど。でももうだいぶ落ち着いたみたいだよ」
アナセスの透明なまでに白い手を握り、ロビンは困ったように微笑した。