AEVE ENDING
―――あぁ、意識が絞れない。
「いたい?」
「…なに?」
「あんたも、痛いの?」
「…僕はもう、そんなに痛まない」
意識が混濁してるいるのかもしれない。
ただ雲雀の台詞を真似て単純に返すだけ。
―――雲雀の顔を、随分久しぶりに見た気がする。
『彼を救う力を、君は持たない』
うるさい。
頭の中で、あの男の声がする。
『彼を暗く深い底から救済するには、それが必要だというのに』
うるさいうるさいうるさい。
「…橘?」
雲雀の声。
掻き消して。
「もっと」
頭の中で、私を責め立てる声がやまない。
「…橘?」
雲雀がベッドのすぐ横に立った。
伸ばされた手に吸い寄せられるように額を擦り寄せて、ねだる。
「もっと、呼んで。名前」
消えてくれないから。
声が、消えてくれない。
(…誰も、救えない)
あの罪人であった男も、妹も、そして―――。
「橘?」
消えてよ。
「…もっと、」
消えて消えて消えて。
頭が、痛い。
いやだ、雲雀が傍にいるのに。
『―――子を成し、次に引き継げ』
う る さ い 。
「雲雀、っ」
不安に駆られたのは何故か。
傍にいるのに。
今そこで、呼吸(いき)をしているのに。
「たちば、」
訝しむその綺麗な顔を引き寄せた。
少し湿り気を帯びた髪に指を差し込んで、逃がさないように。
(ばかなことしてる)
そうして乱暴に重なった唇からは、傷付けあう血の味しかしない。
冷たい。
互いに、真っ青だ。
『そう、だから、産み出せない』
君は神ではないから。
「…っ、」
漏らしかけた嗚咽を雲雀の咥内に押し込んだ。
首筋の傷が痛んだが、そんなことどうだって良かった。
今はただ、この冷たいふたつの体を温めることだけを考えなきゃ。
なぶりあう舌先はやはり低温で、冷たい粘質に不気味だと感じる。
それでも良かった。
なんだっていい。
相手が、雲雀なら。