AEVE ENDING





「…待って、橘」

繰り返すキスで酸素が薄くなってきた頃、倫子のなすがままだった雲雀が抵抗するように上体を起こした。

違和感もなく離れる様が胸を突き、浮かぶ涙が薄闇で見えないことに感謝する。


「…傷を、見せて」

それでも薄闇に漂う血臭は掻き消せないらしい。

痛む腕を取られ、抱き起こされた。
そのまま簡素な服を剥ぎ取られ、何重にも重ねてある包帯を解かれる。
包帯が皮膚から剥がれ落ちる度に濃度を増す血臭に、雲雀は不愉快だと言わんばかりに眉を寄せた。

(傷、開いたかな…)

でも、のたうちまわるほどの痛みはない。出血した程度だろう。


「…ばかだね」

けれど雲雀は、血が滲んだその傷痕を見て、悲痛な面持ちを浮かべて見せた。


(らしくないな…)

眼下に傷を見る。
確かに、酷い傷だった。

首筋から胸元を斜に切り裂いたそれは、薄闇でも歪な皮膚がわかる。
一度、バラバラに切断され張りを失った皮膚が縫合で無理矢理繋ぎあわされ、弛みきり膨らんでいるような。

―――きもちわるい。




「雲雀、みんなは…?」

その傷痕を曝したくなくて、倫子は手元に山となった包帯を掻き集めた。

話題を変えたことに、雲雀は気付いただろうか。


「…無事だよ。僕と君以外は」
「…うちらだけ?」
「そう、僕らだけ」

雲雀の指が頬に伸びる。
柔らかな感触は、その体に傷がないことの証拠だろうか。

(傷を付けた…)

私の我儘で、雲雀に無茶をさせたのだ。



「…雲雀、体、見せて」

気付けは雲雀の服に手を伸ばしていた。
触れる地肌を、確かめたい。

雲雀は驚いたようだったが、すぐさま倫子に従うように薄い服を脱ぎ捨てた。

真っ白な肌色が闇に浮かび上がって、純粋に発光してる。
ちらほらと傷痕らしきものが見受けられるが、思っていたよりずっと綺麗に塞がっていた。
火傷が大部分を占めただろう皮膚も、相変わらず滑らかさを保っている。

(大丈夫。ちゃんと、きれい…)

汚さずに済んだことに安堵して浅く息を吐き出した。
そうして吸い込んだ冷たい空気に頭が冴えていく感覚。
思い起こすあの場の引金になったのは、明らかに己だ。





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