AEVE ENDING








(アミ達も無事…)



―――桐生と双子は、恐らくは逃げただろう。
あの騒ぎでは確保する余裕もなかった筈だ。

「…橘」

雲雀の肌に指先を置いたまま思考に耽っていた倫子を、静かな声が呼び起こした。
促されるまま雲雀から離れるが、しかしすぐさま手を捕まれ引き寄せられる。

「…なに」

腕だけを拘束されて、指先だけで寄り添う。

指先は冷たくなかろうか。
少しだけ体温の籠る贅肉のない胸板に触れたままなのは躊躇われたが雲雀自身は気にした様子はない。

痛む腕にただ耐えて、けれどこうして雲雀を前に生きていられることが嬉しい。

(穢しておいて、都合のいい話だけど…)

だからといって、この想いが止まるわけじゃない。




「―――ごめん」

知らず吐き出していた謝罪は、未だ微かに残る傷痕へか。

「…どうして、謝るの」

そうしてなんの危害もない視線を受け止められないまま、その静かな問い掛けに口を開く。

「…私のせいじゃん。あんたには絶対、傷なんか付けたくなかったのに」

なにもできないならまだしも、しでかすなんてとんだ間抜けだ。

嫌になる。


『お前は無力だよ、バケモノ』

その通りだ。




「…大体、私が油断してなかったらあんな―――」

切り裂かれた痛みが蘇る。
衝撃ですぐさま意識を失ったからよかったものの、桐生を前に油断するなんて馬鹿だ。大馬鹿だ。

その結果、雲雀にあんな怪我を負わせて。


「それに、…」


あんたは、見ただろう。






『おね、ちゃ、』

罪深い記憶は今や、皮膚を喰い破り内臓に歯を立てる。


『ごめん、ね…』

謝ったところでなんになる。
あの子はわざわざ、私を弄ぶためだけに連れてこられた。

道具として、あんな憐れな、最期を。



『いっちゃやだ、おねーちゃ…』

実家に残してきた頃より、少しだけ成長していた。

当然か。
私が家を離れて、既に一年は経過していた。
無邪気な妹は、言葉遊びが好きで、よくしりとりなんかしたりして。



「わたし、…あの子を」

名前など、もう呼ぶ勇気もない。
愛しさを交えて呼ぶ権利など、既にある筈がない。



『くるし、よ…』


渇れた声で。

あぁ、もう以前の愛らしい声など思い出せやしない。




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