AEVE ENDING
―――どうすればよかったのだろう。
目の前で崩れるように僕から離れた橘に、触れられない。
(…壊れそう)
壊したくないのに。
傷付けたくないのに。
けれど、奥底から沸き上がる嫌悪するまでの感情を。
「橘」
名を呼ぶしかできないわけがないのに。
「橘…」
慰めは必要ない。
彼女はなにも望んでいない。
―――じゃあ、どうすればいい?
泣き疲れて眠ってしまった彼女を抱き寄せて、同じ床に潜り込む。
暖かく熱の隠ったシーツの中はまるで彼女を慈しむ子宮のようだった。
生温く心地好く、怠惰的。
(―――橘…)
休息を妨げないように気を付けながら、痛々しく皮膚を荒らす涙の痕を指先で辿りつつ憂鬱を吐き出す。
どうしてこうも、彼女が傷付かなくてはならないのか。
(…なにひとつ、彼女の罪ではないのに)
それなのに、全て背負い穢れ涙し苦痛を飲み込む。
「…救いたいわけじゃないんだ」
そんな甘ったれた言葉で彼女を包み込みたいわけじゃない。
(そんなことどうだっていいのに)
そう例え、全て橘自身の罪だとしてもそんなことに構うわけじゃない。
(君が望むなら何度だって言うのに)
剥き出しになったままの首筋から肩に至る、傷。
そこへ負担が掛からないよう抱え直し、こちらに背中を預ける小さな体を抱き締めた。
「君がどれだけ汚れてたって、構わないのに」
その首筋にゆっくりと顔を埋めた。
柔らかな皮膚の感触が鼻梁を埋めつくし、曖昧な擽りが胸を占める。
「…、」
歪な皮膚の継ぎ接ぎは、不埒な劣情を誘う。
それを耐えるように橘の耳朶に唇を押さえつければ、ひくりと肩が震えた。
(…全部、全部、全部)
僕だけに、見せて。
僕だけを感じて。
僕だけに、委ねて。
そうして僕だけのものになって、君を傷付ける存在も、僕だけになればいいのに。
「橘…」
弛めたままだった包帯を丁寧に巻いていく。
指先が乳房に触れる度、無駄に膨らむ不快を伴う本能を噛み締めた。
傷だらけの体はあまりに頼りなく儚げで、壊したくなるから。
『子を成すことで、君は救われる』
―――そんなことを前提に、望んでいるわけじゃなかった。
(欲しいから、ただ望むだけだ)
それなのに、伝わらない。
こんなにも強く熱く、恋い焦がれているのに。