AEVE ENDING
『触らないで、触らないで』
私を拒絶したその手はいつだって、私を優しく包んでくれていたものだった。
『あの子を、返して…』
涙ながらに吐き出されたそれは、私を罪に問う。
『おまえ、誰だよ…』
躊躇いなく腕に飛び込んできた大好きなあの子達は、貶めの声を上げた。
居場所なんてもう存在しないのだと、はじめから、わかっていたのに。
助けて、助けて、助けて。
悲鳴を上げて逃げ込んだ郷愁はもう、私を受け入れたりはしなかった。
(…もう、誰に手を伸ばせばいいのか、わからない)
―――君は、修羅にはなれぬよ。
(なりたいとも、思わなかった)
―――孤独になれ、バケモノ。
―――お前は孤高で在ってこそ、価値がある。
(そんなもの、要らない)
ひとりはいやだ。
助けてよ、誰か。
『…橘』
あぁ、今一番、聞きたくない声がする。
『橘』
いつからそんなに、優しい色を含むようになっただろうか。
はじめはただの無機物を呼ぶような声色で、繰り返していただけだったのに。
「―――橘…」
その声に、ふ、と息を吹き返すように目覚めた。
額に置かれた綺麗な手、その指の隙間から刺す柔らかな光、それから。
「…ひばり、」
一番、見たくなかった顔。
「朝だよ」
目を覚ませば、上体を起こしている雲雀の太股を枕に、伸ばされたその脚に添うように仰向けで寝ていた。
柔らかな体温に、背中と首筋が埋まっている。
(…嘘だよ)
本当は、一番見たかった顔。
(そんで死ぬまで、見てたい顔…、)
こんなに愛しいと思うのに、慈しむ術を知らない。
(…伝えても伝えても、まだ、足りない)
雲雀の指先が下睫毛の皮膚を擽る。
雲雀の愛猫にでもなった気分だ。
その細腕の中で、慈しまれている。