AEVE ENDING
「…眩しい」
胸が、震えた。
「今日はいつもより雲が薄いからね」
指紋など感じさせない指の腹が、一層深く皮膚を流れる。
眩しい。優しい。
(触るなよ。…汚いから)
移るわけじゃないのに、でも感じてしまうんだ。
(私の汚れは、あんたを傷めてしまうほど強くはないけど)
だからこそ、感じてしまうのだ。
微弱で劣悪な穢れが、雲雀を。
(…あぁ、でも)
体を包む温かさは神様のものじゃない。
額を撫でる指が優しいのは、きっと。
―――甘えたい。
(神様、ごめん)
心臓が身に振り掛かった雪を払うように震えていた。
うちにある雲雀の血脈が濃度を増して、焦がれる。
―――少しだけ、許して。
(この柔らかな熱から、離れたくない)
「…、お腹、空いた」
その足に頬を擦り寄せてシーツを引き上げる。
芯を刺す冷たさは、今は感じない。
倫子に覆い被さるように覗き込んでいる雲雀は、薄手の黒のカーディガンを肩から掛けていた。華奢な奴。
「当たり前だよ。今何時だと思ってるの」
「なんじ?」
「昼過ぎだよ。起きる?」
途端、親切にも倫子を起き上がらせようと身じろぐ気配がした。
倫子はそれを制するように体半分を捻って、雲雀の腰に抱き着く。
鍛えられた腹筋に、シャツ越しに口付けて―――当然、雲雀には気取られないように。
腰に腕を絡ませたまま、駄々を捏ねるように額をシャツに押し付ければ、仕置きと言わんばかりに後頭部を軽く叩く手。
けれどすぐ、優しい愛撫に変わる。
子供を慰めるような、慣れない行為に拙く動く指先は優しく、酷く優しく、頭皮を擽った。
(…こんなに、好きなのに)
ただそれだけなのに何故、ままならないのだろう。
(ただ互いにすべて、欲しいと思うだけなのに)
―――何故、叶わないのか。
『破壊遺伝子を持つ雲雀を救う、唯一の方法はね』
それは、最大の罪なのだろう。
求められていながら応えられない我が身を恨む。