AEVE ENDING






救いたいわけじゃない。
救世主になど、なりたくもない。

ただ雲雀にとっての、「絶対的」な存在になりたかっただけだ。

打ち震える胸はいつだって雲雀と繋がっている。
途切れることは、なかった筈なのに。



「橘?」

覗きこむその頬に手を伸ばす。

滑らかな皮膚を擽る倫子の指先は、硬くて醜い。


「…荒れてる」

倫子の荒んだ指先が擽ったいのか、雲雀はゆるゆると目を細めた。
それはまるで、穏やかさを体言したような表情で。

だから尚更、欲しくなってしまうのだ。





「寝ている間、ずっと点滴だったからね。…最近は、特に寒いし」

長い睫毛に促されるまま視線を窓へと向ける。

室内と室外の温度差に薄く霞んだ窓の先―――外は淡色に覆われ、確かに寒そうだ。

想像して思わず身震ぎすれば、それを感じ取った雲雀が、緩くシーツを引き上げて倫子を包み込んだ。

馴染む体温が酷く優しい。



「…、」

もう一度擦り寄って、伝えたいことはひとつしかないと、自分に言い聞かせる。

こんなに愛しいと、とても素直に感じるのに。

他人が聞けば笑われてしまいそうなほど切実に、求めているのに。



「…橘?」

こうして名を呼ばれること自体に、課される罪は増していくのだろうか。

「痛むの?」

偽りのないまっさらな眼を向けられることすら、今の倫子には酷く重い。


(…いつからだよ。こんな眼、するようになったの)

望みはしなかった。

修羅はただ、倫子の前だけでも修羅で在ってくれればそれでよかった。

―――「雲雀」など、知りたくなかった。



(…知らないままで、よかったのに)

なのに何故、知らないままでいたかったと、心から思えない?

(答えなら、はじめから気付いてた)






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