AEVE ENDING
「―――…、」
触れるだけの、刹那の。
意図を解しないまま、ただ彼女に応えたキスだった。
噛み締めるように下唇に歯を立てられて、皮膚が裂け血が吹き出る前に離れたそれは、唇だけではなくて。
「…、」
密着していた体を引き剥がすようについたてと化した両腕を捕まえる前に、足に掛かっていた重圧が消える。
…するり。
指の隙間から水を取り溢したかのように、僕から離れた橘はもう、こちらを見ていなかった。
苛立つほど軽い音を立てて部屋の扉は閉められ、橘の背中を垣間見る隙も与えず、ただ、腕に名残惜しげに這う熱に縋るだけ。
「…、」
名前を呼んだ筈なのに、聞こえない。
それは、初めての感覚だった。
全身から血の気が引いていく、或いは全身を、氷に冒されているような。
―――喪失感。
もう二度と、戻ってこない。