AEVE ENDING
「―――ペア解消?」
珍しく、医務室への来客があった。
それも、倫子。
危篤状態から安定してはいたが、なにせ三週間の昏睡。
やっと目覚めたのかと安堵したが、その表情に暗雲が立ち込める。
そうして倫子の口から出たその言葉に、とうとう雨が降りだした。
「…なんでまた、急に」
奥田は唐突な「お願い」に、呆気にとられて呟いた。
うまくやってるように見えた。
―――いや、実際うまくやっていただろう。
己が当初予想していたものよりずっと深く信頼しあい、それに値するだけの関係を築き上げていた。
それを身近で感じていたから尚更、今になって、しかも倫子からそんなことを言ってくるとは夢にも思わない。
―――ペア解消。
自分ひとりの了承でどうにかなるものではないが、対象はあの雲雀と倫子だ。
(職員会議にかけたところで、ペア解消を反対する奴はいないよなあ…)
寧ろ、今すぐ解消させろと息巻く教師が過半数を占めるだろう。
ミスレイダーがいれば反対のひとつもあったろうが、生憎、彼女は今産休中で職席に就いていない。
なにより今、この箱舟にははアナセスがいる。
彼女に倫子の席を譲れるなら、国際交流を推進する面々にとって、それは願ったり叶ったりだ。
容易ではないが、容易。
倫子も大概、嫌われ者である。
そんなことを考えながら、奥田は目の前に立つ倫子に目を遣った。
起き抜け、というところだろうか。
白い簡易服は手術終了時に着せたものと型は同じだ。
ぼさぼさの髪はまさに寝起きと明言しているに等しい。
(酷い顔しちゃって…)
今にも泣き出しそうな、いや怒り出しそうな表情を出したり引っ込めたり。
切迫詰まっているようで、判断を委ねている。
なあ、倫子。
「…できなくはないけど、お前はそれでいいの?」
ひくり。
ひきつる肩はなにを思ったのか。
拳を両脇に下げたまま、倫子は絞り出すように声を出した。