AEVE ENDING
「真鶸…」
―――驚いた。
あの人から、こんなに覇気のない声が出るなんて。
目が覚めたのかという喜びも束の間、疲労しきった様子の倫子に、真鶸は思わず息を飲む。
らしく、なかった。
(第一、なんでこんなところに独りで…)
確か、彼女には兄がついていた筈だ。
あの兄が、重傷の彼女を野放しにするだろうか。
しかし今は、それも大した問題ではないような気がする。
今はただ目の前の、傷付き消沈しきった彼女を気遣うだけ。
自分にはそれしかできないと、知っていた。
「…倫子、さん?」
だから、窺うように声を掛けたのだ。
自分が知っている「橘倫子」とは違う、「橘倫子」がそこにいたから。
『―――彼女は、神の身代わりとなった憐れな少女に過ぎない』
つい先日、耳にした彼女の秘密が蘇る。
『継ぎ接ぎだらけの、バケモノ』
そしてなにより、真鶸は勘づいていた
衣服から覗く倫子の皮膚を、真鶸は、見ていたのだ。
「まひ わ」
縋るように呼ばれた名前は、すぐ嗚咽に掻き消される。
どうして泣いているのか、問い掛けすら許されない気がしてただ口を噤むだけ。
まさか自分の存在が尚一層、彼女の罪を深めてしまっているなど考えもしないし、知りもしない。
ただ目の前で、腕で顔を覆い打ち震える倫子はまるでか弱い赤ん坊のようで。
―――だから一歩近付き、その頼りなげな体に手を伸ばそうとした。
「っ、…」
けれど伸ばした手が触れる前に、倫子は後退った。
あの朗らかな体温を逃してしまったことへの虚しさが、真鶸の内に湧く。
「倫子さん…?」
まるでなにかに弾かれるように跳び跳ねた彼女は瞳孔を見開き、自分の行動に驚いているようだった。
露になった顔は涙に濡れ、痛々しすぎてこちらまで泣きそうになってしまう。
(…でも、ここで泣いたらダメだ)
そうしたらもう二度と、彼女に近付けない気がした。