AEVE ENDING
「…め、」
小さく、吐き出された倫子の声に耳を傾ける。
なにか言いたげに震える唇は、伝えたいがしかし震えてしまい、それをうまくやれない。
だからアダムの能力をほんの少しだけ解放して、ノイズ混じりの倫子の台詞を聞き取った。
「…さわっちゃ、だめ」
それは、拒絶ではなかった。
漠然と沸き上がる得体の知れない感覚。
(―――守ろうと、してる)
明らかに、僕を。
(―――でも、誰から?)
わからないまま微動だにできずにいると、倫子がもう一度、後退った。
今気付いたが、驚いたことに倫子は裸足だ。
火傷を負っている筈の足裏が床を直に擦る音は痛々しい。
そうして倫子は穏やかさを少し滲ませた表情を作って見せた。
(―――泣いてしまう)
彼女の顔は確かに笑みを象っているのに、何故、そう思ったのか。
(だって本当は、笑いたくなんかないのに)
まるで無理矢理そう施された人形のようで。
被された仮面はあまりにも不出来で、笑みなのか泣き顔なのか形容したがたい。
けれど確かに、彼女は笑みを浮かべているのだ。
(僕を安心させようとしてる)
恐怖を、痛みを苦しみを抑え込んで、浮かべる笑みの意図は。
―――今にも飽和した涙が落ちてしまいそうでこわい。
皮膚を伝う彼女の波動は深い深い悲しみの海を思わせた。
鋭く、歪。
諦めを知る、その眼は。