AEVE ENDING
「―――婚約?」
その美しい唇が紡ぎ出した言葉に、ロビンは思わず聞き直していた。
雲雀の部屋へ向かう、と唐突に言い出したアナセスの付き添いとして、この瀟洒な部屋に訪れて、数刻。
いつもより顔色の悪い雲雀を前に、アナセスは前触れもなくそう語り出した。
「貴方のご両親からのお話です。ただ、当然のことながら国交取引が組み込まれています。わたくし達に、相手を選ぶ権利はないかと」
淡々と語るアナセスは、どこか怒っているようにも見える。
雲雀は窓際のソファに腰掛け、静かな横顔をただ窓の外へと向けていた。
なにか言えよ、と急くロビンをアナセスが無言のまま制する。
「…わたくしは、国の為に従うつもりですわ」
だからお前も、私情を挟むなと牽制しているのか。
或いはただ、意思を伝えただけなのか。
きっと、どちらでもない。
あの夫婦に度々呼び出されていた件がまさか、こんな内容のものだったとは。
(アナセスが、雲雀と…)
思わず呆然としてしまう。
妹のような存在であるアナセスが、この冷血な修羅と。
助けを求めるように雲雀を見やる。
(…お前には、橘がいるだろう)
お前が反対すればまだなんとか―――。
そこで、はたと気付いた。
(橘はどうすんだ)
まだ、眠っているのか。
奥の部屋にいるのだろうか。
「…、」
もし、この話を聞いていたら。
(俺同様、初耳だったら)
アナセスを差し置いて、ロビンの頭では倫子のことばかりが巡る。
(…やめてくれよ)
この頭はどうなっているのか、自分自身でもわからない。
だからこそ、と雲雀を睨むように見る。
アナセスはただ、雲雀が口を開くのを待っているようだった。
―――けれど。
「…そう」
雲雀が発したのは、その一言だった。
今にも空気に融けてしまいそうなそれは、諦めた溜め息のようにも思える。
怒りが沸騰して、つい声を上げてしまった。
「…おっまえ、なあ!お前はそれでいいのかよ!」
ロビンは吹き出した憤りのまま、アナセスの前に置かれたテーブルに拳を叩きつけた。
それでも動じない―――アナセスも雲雀も、だ。