AEVE ENDING







―――ただ憎まれたまま、生きていたほうがよかった。

そして殺されて、すべて彼女のものになれたらと、願う。


(乱暴に掻き抱くしかできない、この役立たずな腕なんか要らない)


彼女は傷を傷で返さない。
いつだってその腕を広げ、抱き包むことをする。


―――彼女の優しさは、この身には辛い。

その半分でもと、微かにでも思いながら。



(…それなのに、男は浅ましい)

男は知っている。

女と比べ遥かに脆弱で強硬で生き急ぐ精神は、縋る前に包む前に、薙ぎ倒すことしかできないと。

血肉を裂いて喰らうより、ずっと残酷で卑しい方法で、彼女を己のものにしようとする。




「…橘、」


頭が、痛い。

うちに沸騰する熱は反して、冷ややかで波すら立たないのに。

ただ拳を握るしかない手は、あの傷だらけの体を掴むことができないでいた。


―――砂のように、溢れていく。

指の隙間から、一粒すら留まらない。



「橘…、」


―――どうして。

体中を巡る彼女の無機質な後ろ姿にすら、もう手を伸ばすことすら叶わないのか。



(問い掛けはいつも、暗い底に墜ちて答えなど産まれない)


それでも、ただ逃すつもりはないのだと。


(それで橘が傷付いたって、構わないんだ)


はじめからそんな生温い関係など、望んでいない。

なんだっていい。

彼女が幸せだろうが傷付いていようが、それをもたらすものが僕ならば、それで。


例え、憎まれても。






―――逃げるなら。








「殺してあげる」



どんなに泣き喚いたって知らない。

どんなに憎まれたって、構わない。


それでも、離してなんかやらない。






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