AEVE ENDING






(俺は神父じゃないけど)

けれど、懺悔して少しでも楽になるというなら。


(そんだけで、かまわねぇよ)

多くを望むわけじゃない。

ただ、こいつを、この女が背負うものを、少しだけ軽くしてやれたら、もうそれだけでいい。



「…、」

だから決して、この手は下心からじゃない。

倫子の額を撫でた長い指は躊躇いを残したまま、行き場を模索するように髪を梳き始める。

「…あんた、いつからこんな優しくなったのさ」

触れられていながら、大した警戒もしていないらしい。

緩く笑うそれは、家族に向けるものに似ていた。

アナセスの絹のような髪質とは天と地ほども違う傷みに傷んだ髪が、指を乱暴に撫でていく。

穏やかに装いながら目を細める倫子は、犬のようだ。

誰にでも懐く、愛嬌のある犬。

―――けれど、傷を負っている、憐れな。




「だめだよ」

ふらり、離れた。

指先で確かに捉えていた筈の温もりが遠くなる。

「…汚いから、触らないで」

自らを貶める言葉をなによりお前は震えもせず口にするから。

「…近付くな」

それは、なにを思って出る言葉なのか。

―――なにを、伝えたい。

なにを望む。

なにを、悼んでいる?




「たちば、」

思わず、再び捉えようと手を伸ばした。

それなのに掴むのは、空ばかり。


「アナセスの傍にいるような男が、私に触るな」

アナセス、美しい、アナセス。

誰からも愛され、誰からも慈しまれ、誰をも愛し、誰をも慈しむ、白銀の女神。

けれど目の前の女は、畏れている。



「どっか行け。もう、話したくない」

拒絶はいつから。

逸らされる視線は、らしくなく泣きそうになりながら床へと落ちる。

いつの間に立ち上がっていたのか。

倫子の小さな体が優しさから逃げるように一歩、後退った。




< 1,067 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop