AEVE ENDING
(…お前、だからさ)
広がる距離に、湧き立つ苛立ちがただ脳味噌を喰い破っていく。
「…なんなんだよ、お前」
―――どうして、そうやって、いつも。
「なんで、そんないつも自分ばっか傷付いたような顔してんだよ。最初にアナセスと会った時だってそうだ。あいつの傷みも苦しみも、なにひとつ知らないくせに、偉そうに見下して」
止まらなかった。
口を突いて溢れた言葉は、真実でありながら真実じゃない。
倫子の背後に雲雀が見えたが、それでも止まりそうになかった。
「お前がどんなもん背負ってるかなんて知らねえ!盲目のアナセスがどれだけ苦労してきたかなんてお前は知らないだろ!?…っなんだかんだ言って雲雀に庇われて、いい気になってる奴がアナセスを馬鹿にするな!」
もう、自分でもなにを言っているのかわかりはしなかった。
ただひたすら、傷付けてやりたくて、仕方なくて。
こんなところアナセスに見られたら、叱られるだろう。
雲雀の眉間に、深く皺が刻まれたのが見えた。
倫子は雲雀の存在に気付いているのか、いないのか。
ただ浴びせられる罵倒を、表情もなく受けている。
そうだよ。
そうやって黙って、聞いてろ。
「…汚いよ、お前、汚い」
こんなこと微塵も思っていない。
それなのに、こんな言葉が体の奥から次々と溢れてくる。
静かだったその眼が、揺れた。
「…っ、」
もう少しだ、と誰かが囁いた気がした。
―――泣けよ。
「実の妹を殺して、よくのうのうと生きてられるよな。アナセスだったら、自分の命に代えても救ったのに」
―――傷付け。
目一杯の傷を付けて、忘れられなくしてやる。
「…さ、い」
かさついた唇が、震えた。
聞かせる気すらないような声が、あぁ、痛ましいほど、愛しい。