AEVE ENDING






「…なにしてんの?」

ロビンが呼吸困難に陥って意識が落ちかけた瞬間、間延びした声が雲雀の凶行を止めた。

掠れた視界で見やれば、倫子の頭に手を置いた保健医、奥田の姿。

倫子は下を向いたまま、微動だにしない。



「雲雀くぅん。君、まだ全快ってわけじゃないんだから喧嘩は駄目だよ。喧嘩は」

未だロビンの首に巻き付いたままの雲雀の指を、奥田は簡単に外してしまった。


「…っゲホッ、」

途端に咳き込み、生き返ろうと体が酸素を取り込む。

既に、雲雀の眼中にロビンはいない。

雲雀の視線は、死んだように動かない倫子に向けられていた。


「ロビンくん、君、声がとても大きいね」

奥田のその無関心な一言で、彼がロビンの言葉をすべて聞いていたことを理解する。

居たたまれなくはならなかった。

罪悪感も湧かない。

今まで、こんな理不尽な罵倒を他人に浴びせたことはなかったのに。


―――自分でも、わからなかった。




「…、」

雲雀に掴みあげられた首が痺れていた。
きっと深く痕がついているだろう。

これは、罰か。

神が愛でる慈愛を踏みにじった罪人の、刻印。



「…橘」

雲雀がゆっくりとその名を呼んだ。

なにを含むわけでもなく、淡々とした声に倫子は反応しない。

ただ、下を向いたまま。

なにを考えているのか、なにを感じたのか。


(って、俺が気にすることじゃねぇよな…)

無気力な倫子を見て、やっとこさ頭を擡(もたげ)た罪悪感に息を吐く。

だからといって、今更謝ることなどできない。


「倫子」

そんな倫子を呆れたように見返し、奥田がその頭に手を伸ばす。
雲雀はただ黙って、事の成り行きを見守っていた。




「…触るな」

ぱしり。

軽い音を立ててはたかれた奥田の手は、そのままぶらりと下を向いた。

その頑なな態度とセリフに、奥田が深く溜め息を吐き出す。





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