AEVE ENDING
(…誰だ、こんな奴に説明を任せたやつは)
しかし倫子がそう言って呆れた瞬間、奥田の表情が一変した。
眼鏡の奥のだらしない造形が冷ややかに濡れて、寒気がするほど不気味な雰囲気が漂う。
その変貌に、奥田のだらしなさに引き込まれていた生徒達が一斉に居住まいを正した。
「…今からお前達には、此処から八キロ離れた北の島へ行って貰う」
奥田の言葉に、雲雀と倫子以外のアダムが、ハ、と息を飲む。
それは、アダムにとって呪われた「名」だ。
―――『北の島』。
一般的な知名度は低いが、新人類アダムの間では有名な島である。
アダムとして産まれたからには因果ある「場所」と言ったほうがいいだろう。
東京湾北に八キロ、閉鎖された孤島。
反アダム派の一派が、アダムとの和平を拒み、旧文明の跡地で独自の生活を展開している「幻の島」である。
そこは国政の手すら届かない、完全独立の「一國」。
しかし、「北の島」が異質な存在として扱われている理由はそれだけじゃない。
アダム反対派とはいえ、島民のなかにもアダムとして目覚めた者が数人は居たらしい。
アダム覚醒は抑えられるものではないため、その事象自体は不思議なことではなかった。
だが、問題はそこではないのだ。
生粋の反アダム分子の島民達は、アダムとして覚醒したこども達を産みの親自らの手で虐殺した、という事件報告――には、当時の誰もが嫌悪と戦慄を覚えた。
彼らは、新人類アダムを「神が忌むもの」と称し、排除運動を未だに行っている特殊な種族なのである。
「彼らの過激ぶりは、噂で聞いたこともあるだろう」
「北の島」と聞いた途端、蒼白になった生徒達に奥田は話を進めながら意地の悪い笑みを向けた。
「―――なぁに、ミッション遂行はそう難しくねぇよ」
歪んだ笑みは、まるで悪魔のように軽薄で残酷。
「二日間、生き残れ」
欲した事実は嘘で塗り固めたような薄汚れた事実であり、不平等で平等だった。