AEVE ENDING
「…、ぅあ?」
目映さに視界が急激に開けていった。
目覚めて真っ白な世界は、初めてだ。
(あったかい…)
脳味噌が蕩けそうなまでの温度に目眩がする。
被っているのは薄いシーツ一枚だというのに、何故か、熱い。
「…橘?」
呼ばれた名。
心地好さに思わず閉じ掛けた瞼を持ち上げる。
鼓膜に突く落ち着いた声は、今まで聞いたことないくらい、感情に富む。
倫子は枕に頭を埋めたまま、ゆっくりと視線を巡らせた。
腰に伝う鈍痛を無視して、艶やかな、けれどいつもより乱れた黒髪を視界に入れる。
肘を立てて頭を支えている雲雀が目に入ってすぐ、呼吸が止まりかけた。
「…おはよう」
目を細めた笑みを、初めて見た。
愛しさを体言したら、きっとこんな顔になる。
仰向けの倫子を守るように覆い被さる雲雀の華奢な体に照れた。
熱いくらいの体温が、らしくなくて、尚更。
「おはよ…」
起き抜けの舌足らずな挨拶は酷く不格好だが、その穏やかな笑みをもうひとつ引き出すことに成功したので良しとする。
長い睫毛に捉えられ、赤面したまま動けない倫子に雲雀の腕が伸びて、前髪を撫でた。
その優しすぎる指先に、涙が出そうになる。
雲を通す陽射しが、柔らかい。
「…あさ?」
「朝だよ。起きないから、殺しちゃったかと思った」
雲雀が穏やかに笑う。
心臓に込み上げたなにかを堪えるように、倫子はその細い首に腕を絡めて抱き着いた。
(…雲雀の匂いに、私の匂いが混じっている)
あぁ、しあわせだ。
「まるで自分だけ、幸せに浸っているような顔だね」
抱き締められたままその膝に座らされた。
剥き出しの肌が恥ずかしい、とてつもなく。
「…だって、幸せだし」
そうして起き上がって、初めて気付いた。
治りかけの無惨な傷痕。
赤黒く変色した、まだ生々しいそれは誰から見ても醜くて。
それが恥ずかしくなって悲しくなって、俯こうとした両耳を倫子は摘ままれた。