AEVE ENDING






「…そうだな、あぁ、そうだ、お前の言う通りだ。橘」


―――タチバナ。

彼女を化物と呼ぶ男が初めて、その名を口にした。

無色を纏う、今までのような軽蔑は混ざらない、ただの名として。



「…桐生」


お前が、望んでいたのは。



「僕に、救えと言ってるの?」

破壊神である、雲雀に。

美しき「母」を救ってくれと、男は。


「…はじめはただ、お前の確固たる存在に憧れていた。揺るがない炎は、まさに破壊を導く神のように見えた」

陶酔していた。

破壊神である、絶対的な少年に。

罪人が神に焦がれるように、まさに乞うていたのだ。



「…お前は、破壊の道には進めぬよ」

人を慈しむことを知った神は、人へと堕落してゆく。

もう二度と、神には戻れまい。



「構築してくれ。お前達の世界を。私達の美しい「母」の御魂を、お前の力で、浄化してくれ」


―――雲雀。

お前はもう、修羅ではない。



「世界は、優しく…、在る」


―――だからこそ。



「全ての為に全てを賭けて、世界を、助けてくれ」


だからこそ、破壊遺伝子を組み込んだ真鶸は保険に過ぎない。

雲雀の生きた時代で、「母」の救済が成し遂げられなかった時の為の、唯一の保険。

今までのように破壊の血脈を繋ぎ止めるための彼は、雲雀がしくじった時の為の「鍵」だ。

その鍵が使われないことを祈りながら、このまま腐敗した世界がただ朽ちていくのも見たくない。



「お前はもう、修羅ではないのだ、―――雲雀」


黄昏は終焉か始まりか。

人に愛され愛することが赦されたお前は、神にはなれない。


(安寧の中で、朽ちてゆくがいい―――)



そして。






「私の、憐れな橘…」


そしてお前は、雲雀という男と共に生き、共に朽ちていけるように。

その小さな魂をこの手で何度握り潰そうとしたか。

何度、終わらせようとしたか。




「…お前達が、ひとつとして生きていけるように」


慈しむすべてに、優しさと光と安寧を与えられるように。







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