AEVE ENDING
北の島へと向かう船の上。
倫子は廃れきった水平線を眺めながら、奥田の最後の言葉を思い出していた。
『島での行動はペアが原則。今のパートナーと支え合って、とにかく生き抜け。単独行動を取ろうなんて考えるなよ。過激派相手に手を出すのもやめろ。下手な考えも起こすな』
お前らはただ、生き残ればいい。
『―――簡単だろ?』
(…簡単?軽々しく言ってくれる)
希少価値下にある新人類アダムをわざわざ危険に曝す意図は?
(完全放置と見せかけて実は監視下にある、とか?…遠視できるアダムがいれば、不可能じゃない。感覚系でいえば奥田がそうだし……)
けれどそれにしたって、わざわざ「北の島」を選んだ理由はなんだろう。
この荒廃して土が痩せた国には、危険な場所などそれこそ探せば幾らでもあるというのに。
(…わざわざ反アダム勢力の住民達が生きる島に?)
―――危険過ぎる。
何度考えたって置かれた状況は変わらず、結果も同じ。
考え過ぎて頭が爆発しそうだった。
現実逃避のように海を見下ろせば、少しずつ汚染濃度が増していくのか茶色から黒く濁り始めていた。
鬱蒼と波を弾く不気味な海面に、深い溜め息が出る。
「…橘」
海を見て暗雲を見て、緊張に体が強ばったところで背後から声を掛けられた。
外装だけは耳に心地よい、この音は。
「…雲雀」
振り向けば、甲板に立つ痩身。
強い潮風に、肩に羽織っただけのブレザーの袖がばたばたと靡かせながらも、自身のバランスは崩さない。
「…上着、飛ぶよ」
あぁ、こいつ、強いな。
倫子がいま漠然と感じている緊張も不安も心細さも、雲雀は簡単に受け流すことが出来る器を持っている。
その綺麗な表情に一切の蔭りはなく、いつもとなんら変わらない状態。
(雲雀の「普通」がなんなのかなんて、知らないけどさ)
絶対的な差を見せつけられたようで直視していられず、倫子は思わず視線を逸らした。