AEVE ENDING
「―――そうか、桐生が死んだか……」
虫の羽音も聞こえない、静かな空間の中で、彼、幾田慶造は、悲しみ深くそう言葉を洩らした。
桐生の死後、まだ数時間しか経っていない。
遺体を箱舟へと持ち帰り、事の処置は箱舟連盟当局に任せた。
寄る辺を持たない双子を西部箱舟へと導いて、倫子を部屋に押し込めて、そうしてやっと、桐生の血縁者である彼に報告できる時間が作れたというわけである。
雲雀はただ無表情に事の次第を告げ、慶造に答えを出させようとしていた。
―――いや、答えを聞きたいのは、慶造のほうであろうか。
「もう敵手は消えた。お前はどうする、雲雀」
―――敵手。
慶造は桐生をあえてそう呼んだ。
本来ならば、死者の悪口(あっこう)を口にはしたくないが、仕方ない。
幾田桐生はあまりにも多大な影響を与えてしまった。
彼が死んだ後も、手垢が残るようなことを。
それこそ、見ていた野望はあまりにも美しく慈しみ深く、無謀であったからこそ―――。
問い掛けられた雲雀はただ、静かに前を見据えていた。
腰掛ける慶造を前に、ゆるりと口を開く。
「…別に、どうもしない。僕は僕のまま、今まで通り生きていくだけ。…問うべきは僕ではなく、橘だ」
それは淡白な台詞であったか、やはり彼にも影響はあったのだろう。
いつもは清い視界に、今は微細な翳りが掛かる。