AEVE ENDING
慶造は溜め息を吐き、そうして改めて問う。
―――では、彼女は?
「…どうすればいいか、わからないと言っていたよ」
殺すべき相手は、憎むべき相手は、永遠にあるものだと信じてきたのに。
(―――橘…)
桐生を失った時の、あの無気力な、眼差し。
「桐生が消えた今、橘に危険は及ばない。アダムとして箱舟で生きるより、彼女は家に還したほうがいいかもしれない。……人として生き、人として死んだほうが、彼女にはきっと優しい」
―――橘倫子。
欲望の中心に巻き込まれた、憐れな贄。
自身を暗闇の中へと引きずり込んだ男の呆気ない幕閉じに、彼女はなにを思ったのだろうか。
「橘は、家に還すよ。…僕から離れれば、あのふたりからも逃れられるからね」
桐生が死して尚、雲雀の養父母にあたる者達は倫子を消し去ろうとするのだろう。
欲深い魔手から守るために、箱舟に置かれていた彼女を。
家族を手にかけた彼女を、早く、早く暖かな優しさの中へ。
―――たとえ僕から、遠く離れてしまっても。
「…君は、それでいいのかね、雲雀」
彼女が、僕の心臓だとしても。
「…愚問だよ」
彼女が優しい世界に戻れるなら、己の欲望など殺してみせる。
朽ちるまで触れられないとしても、毎日、君の夢を見ることにする。
(君は、僕の)