AEVE ENDING
「…桐生は、はじめからこのつもりだったのかねぇ…」
雲雀が連れ帰った双子を前に、奥田は小さく溜め息を吐いた。
その隣で、ササリは艶やかな紅が塗られた唇を不愉快そうに歪めている。
雲雀に指示された通り双子の傷を治療し、緑茶を勧めて二時間ほど経過した、今。
倫子は部屋に閉じ籠ったまま出てこない。
奥田とササリがいる医務室に集まった双子と鐘鬼、そして、真醍。鐘鬼はなにを言うでもなく、ただ前を見据えていた。
―――幾田桐生。
日本箱舟連盟に名を連ね、東部箱舟の理事長でもある日本を代表するアダム。
人類初のアダムと認定された幾田慶造の血縁者であり、国家を揺るがす大罪を犯した後、アダム収監所での監視の下、終身刑の身となる。
しかし、数ヵ月後に脱獄。
アダム候補生によって負傷を負わされ、世界中に指名手配されていた。
唯一の裏歴史を知る、一人である。
「結局、ずぇえんぶ幾田桐生の計画通りになったってわけかよ」
真醍が面白くなさそうに唇を尖らせた。
なにも知らない無知な世界は今まで通りなにもなかったかのように静寂を保っていたが、「二人」には考えうる限りの重い酷を負わせたのだ。
それこそ倫子には、一生の傷を。
一体、なにを求めていたのか。
彼も我々同様、失いたくないともがいていたのか。
この灰に深まる世界は、極彩に美しかった筈なのに。
いつから、悲しみに満ちていたのか。
(―――神は、美しい)
「…幸せを、願っていたのかもしれません」
ぽつり。
リィが掠れた声で呟いた。
古い記憶を引き出すように閉じた瞼は、開かれた途端、決壊してしまうだろうか。
「…桐生様はきっと、雲雀様を救いたかったのです」
孤独として産まれたのは、かの者が神であるが故に。
この世界を破壊するために創られ、目覚めた阿修羅の性を。
「なにを犠牲にしても、彼を、この星を」
孤独であるからこそ美しいと、桐生は雲雀を説いたのだ。
けれど雲雀が一遍の曇りなく美しく在るためには、この星を破壊する必要がある。
破壊する―――。
この死にかけた星を。
未だ再生の力を残す、美しく在る世界を。