AEVE ENDING
「…怖かった」
幼い妹を殺したこの手で、この目で、家族にどんな顔をして会えばいいのか。
「…でも、嬉しかったんだ」
夢にまで見た、懐かしい世界。
愛しい我が家、家族。
罪深い体をそれでも、暖かく迎えて欲しかった。
『―――ねえちゃん…?』
呆然としたまま、痛みに身動きの取れない私の背後。
耳に体に、心に染み着いた懐かしい声。
一番上の弟の、声だった。
『―――っ、…』
嬉しさに込み上げた名を呼ぼうとして声が出なかったのは、殴られたからだ。
なにがどうなったかなど理解できぬまま、殴られた顔を上げる。
打ちのめされた全身の痛みが酷すぎて、殴られた程度の痛み、全く大したものではなかったのに。
―――声が、出なかったのは。
『…倫子』
母が口にしたのか父が口にしたのか、今となってはもうわからない。
視界に映るのは弟と、そして後から後から集う、私の大切な家族達。
昂った感情が涙腺を決壊させ、自分になにが起きているのかすら、わからなくて。
『どうして、』
『…どうして、あの子を助けてくれなかったの…』
それは、罪を問われた瞬間だった。
目眩がする。
全てが、壊れていく。
『―――お前は、倫子の皮を被った化物だ』
それは、私を闇に追いやる苦痛の淵で。
『…あなたは、誰なの』
わたしはもうたちばなでもみちこでもない。
『…倫子姉ちゃんを、返してよ』
『あの子を殺したのは、ねぇ、誰なの』
狂ってしまったのはいつからだろう。
正常でない私。
正常でない家族。
「…どういった経緯で家族に妹や実験のことが伝わったのかは知らない。知りたくなかった。ただ、あの時はただ、…怖くて」
憎悪に似た恐怖が、喉をせりあがってくる。
「彼ら」にとって、「私」はもう「娘」でも「姉」でもないのだ。
―――愛しい者の皮を被ったバケモノ。
罪深い生き物としてしか、その目に映らない。