AEVE ENDING
『姉ちゃんを、返せよ!』
泣きながらそう叫んだ弟の悲鳴が、忘れられなかった。
まだ、「私」を愛している声。
「…なのに、私はその時、家族を殺したいくらい、憎んでた」
ドウシテワカラナイノ。
ワタシハミチコナノニ、ワタシガ、ミチコナノニ。
―――ナキタイノハ、ワタシノホウダ。
「…悔しかった。悲しかった。痛かった」
望んで望んで望んで、だからこそ苦痛に耐えてこれたのに。
「…なんでわからないの、なんでそんなこと言うの、なんで、見てくれないの、」
生きているのに。
「…、倫子は」
こうして、帰ってこれたのに。
『お前なんか姉ちゃんじゃない!姉ちゃんと同じ声で喋るな!姉ちゃんと同じ顔で泣くな!姉ちゃんと同じ手で、殺したくせに…!』
摩り替えられた真実を解く気力はもう、残ってなどいなかった。
「一番小さな弟に、血の臭いがするって、言われて」
こんなのみちこねえちゃんのにおいじゃない。
いやだ、こわいこわいこわい、こわい。
「私の痩せ細ったきったない顔見て、こわいって、泣いてた」
そこにはもう、私を知る家族などひとりもいなかった。
そこにはもう、私が知る家族など、ひとりもいなかった。
記憶に焼き付いていた太陽のような笑顔は、もう見ることは叶わないのだ。
それが、「私」に向けられることはない。
―――だって私は。
「…倫子、」
記憶の中の『バケモノ』、と重なった声に思わず息を止めた。
背に回された腕に寄せられるまま、その細い鎖骨に頬を寄せて、小さく息を吐く。
陰惨な過去に飲まれそうになっていた自分を一歩手前で引き上げてくれた声に、心底から安堵して。
「…あんたが私のこと名前で呼ぶの、初めてだね」
床から直に伝わる冷たさは、雲雀の暖かさをより一層、強くして。
縋るようにその頭を抱き寄せた。
互いに抱える、痛みと孤独。
擦り合わすことで消えるなら、どんなにいいか。