AEVE ENDING





「…雲雀、」

ねだる度の羞恥ならもう、とっくの昔に慣れた。

その綺麗な唇を求めるのに、理由なんかいらない。



(ねぇ、頂戴)

早く、はやくはやく。

(傷を舐めるためだけの行為じゃない)



「私だけ、見てて」

その綺麗な黒目を私の両手で塞いで、私しか見ないように、私しか感じないように。


「死ぬまで、私のこと、」

私だけ、見てて。



「…橘、」

雲雀の声が胸に木霊していく。
緩く落ちるその声色は、私だけのものになる日がいつかくるのだろうか。


「ねぇ、僕はね」

雲雀の唇が瞼に触れて、そこから全てを吹き込むように吐かれる吐息はなにより優しい。


「…、」

美しい両手が皮膚を包む暖かさと、胸の内側に雪のように落ちていく呼吸。


「君に言われる前から、もうずっと前から、」

見えてないんだ、君しか、見たくない。






―――あぁ、もう、だめ。







「…私、あんたがいなくなったら、生きていられない」

「僕が消える時は、橘も道連れだよ」



依存じゃない。
寄生じゃない。

苦しさに満ちた世界で、ただ「お前」だけが、「君」だけが、美しい。



(―――世界が、一番美しく煌めく瞬間を、知ってしまったから)




僕は。

私は。




「雲雀、」


がむしゃらに抱いてしまってはきっと壊れてしまうのだろうと恐れている。

緩く墜ちていく気配にただひたすら、僕は満足していた。

残像がただ繰り返し僕の視界をよぎってゆくのに、君は確固たる意思と力を以て存在している。


君の胎内に流れる血液は僕と同じもの。
君の体を作り上げている細胞は僕と同じもの。

ただひとつの存在として、共に生きている。

草花の咲かぬこの荒れた風の大地で、僕らに息を吐かせぬまま世界は動き続けていた。


―――そう、こんな世界で僕たちは。







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